神戸地方裁判所 昭和61年(ワ)432号 判決 1988年8月12日
原告(反訴被告)
阪神被服株式会社
ほか一名
被告(反訴原告)
原本智博こと裵順基
主文
一 原告(反訴被告)等の請求を、いずれも棄却する。
二 反訴被告(原告)等は、反訴原告(被告)に対し、各自金四三〇万〇九〇七円及び内金三七四万五四七七円につき昭和六二年六月一八日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
三 反訴原告(被告)のその余の反訴請求を棄却する。
四 訴訟費用は、本訴反訴を通じてこれを一〇分し、その七を原告(反訴被告)等の、その三を被告(反訴原告)の、各負担とする。
五 この判決は、反訴原告(被告)勝訴部分に限り、仮に執行することができる。
事実
以下、「原告(反訴被告)阪神被服株式会社」を、単に「原告会社」と、「原告(反訴被告)川村光男」を、単に「原告川村」と、「被告(反訴原告)原本智博こと裵順基」を、単に「被告」と、それぞれ略称する。
第一当事者双方の求めた裁判
一 本訴
1 原告等
(一) 原告等の被告に対する別紙事故目録記載の交通事故に基づく損害賠償債務が存在しないことを確認する。
(二) 訴訟費用は、被告の負担とする。
2 被告
(一) 主文第一項同旨。
(二) 訴訟費用は、原告等の負担とする。
二 反訴
1 被告
(一) 原告等は、被告に対し、各自金五七〇万五九一五円及び内金五〇四万八四四四円につき昭和六二年六月一八日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
(二) 反訴費用は、原告等の負担とする。
(三) 右(一)につき仮執行の宣言。
2 原告等
(一) 被告の反訴請求を棄却する。
(二) 反訴費用は、被告の負担とする。
第二当事者双方の主張
一 本訴
1 原告等の請求原因
(一)(1) 別紙事故目録記載の交通事故(以下本件事故という。)が、発生した。
(2) 被告は、右事故により負傷したとして、神吉外科医院で治療を受けた。
(二) 本件事故は、原告川村の安全確認義務違反の過失により発生した。
又、原告会社は、右事故当時、原告車の保有者であつた。
よつて、原告川村には、民法七〇九条により、原告会社には、自賠法三条により、それぞれ被告の右事故による損害を賠償する責任がある。
(三) 被告にも、本件事故発生に対し相当の過失がある。
したがつて、仮に被告に右事故による損害が存在したとしても、同人の右過失は、同人の右損害額を算定するに当つて斟酌されるべきである。
(四)(1) 原告等は、本件事故後、被告に対し、右事故に関し合計金三〇万円を支払つた。
(2) 被告の本件損害は、右支払金合計金三〇万円をもつて填補され、原告等の被告に対する本件損害賠償債務は、消滅した。
(五) しかるに、被告は、原告等に対し、依然右損害賠償債務の存在を主張している。
(六) よつて、原告等は、本訴により、同人等の被告に対する本件事故に基づく損害賠償債務が存在しないことの確認を求める。
2 請求原因に対する被告の答弁及び抗弁
(一) 答弁
請求原因(一)、(二)の各事実は、認める。同(三)の事実は、否認し、その主張は、争う。同(四)(1)の事実は、認める。同(2)の主張は、争う。同(五)の事実は、認める。同(六)の主張は、争う。
(二) 抗弁
被告が本件事故により傷害を受け損害を蒙つたこと、したがつて、原告等の被告に対する本件損害賠償債務が依然として存在することは、後叙反訴請求原因で主張するとおりである。
よつて、右主張事実を、ここに抗弁事実として引用する。
3 抗弁に対する原告等の答弁及び再抗弁
(一) 答弁
反訴請求原因事実に対する答弁と同じであるから、それをここに引用する。
(二) 再抗弁
反訴抗弁と同じであるから、右主張事実をここに再抗弁事実として引用する。
4 再抗弁に対する原告等の答弁
反訴抗弁に対する答弁と同じであるから、それをここに引用する。
二 反訴
1 被告の反訴請求原因
(一)(1) 本件事故が発生した。
(2) 被告は、右事故により、頭部外傷2型、外傷性頸部症候群、腰椎椎間板傷害、右肩鎖関節損傷、胸腹部挫傷、頭蓋部前額部右大腿部挫傷挫創の傷害を受けた。
(二) 本件事故は、原告川村の安全確認義務違反の過失により発生した。
又、原告会社は、右事故当時、原告車の保有者であつた。
よつて、原告川村には、民法七〇九条により、原告会社には自賠法三条により、それぞれ被告の右事故による損害を賠償する責任がある。
(三) 被告の本件損害
被告は、本件受傷治療のため神吉外科病院に次のとおり入通院した。
入院 昭和六〇年一一月二六日から同六一年二月一八日まで八五日間。
通院 昭和六一年二月一九日から同六二年六月一五日まで約一六カ月間(実治療日数一四〇日)。
(1) 入院雑費 金八万〇五〇〇円
入院期間八五日で、一日当り金一〇〇〇円の割合。
(2) 休業損害 金三三六万三四四四円
(イ) 被告は、本件事故当時、訴外株式会社福田組に勤務し、一日金五九三二円の賃金を得ていた。
(ロ) 被告は、本件受傷治療のため本件事故日の昭和六〇年一一月二六日から症状固定日の昭和六二年六月一五日までの五六七日間右会社を欠勤した。
(ハ) よつて、被告の本件休業損害は、金三三六万三四四四円となる。
(3) 本件後遺障害に基づく逸失利益 金三五万七四七一円
(イ) 被告の本件受傷は、昭和六二年六月一五日症状固定し、頸椎に頑固な神経障害を残す後遺障害が残存した。
しかして、右後遺障害は、その障害等級一四級一〇号に該当する。
(ロ) 被告は、右後遺障害のため、従来行つていた作業を継続することが困難な状態にあるが、その労働能力は、少くとも五パーセント喪失している。
又、右後遺障害は、本件症状固定日から三年間継続する。
(ハ) 右各事実を基礎とし、被告の本件後遺障害による逸失利益を算定すると、次のとおりとなる。
ただし、被告の収入は、昭和六〇年賃金センサス第一巻第一表産業計・企業規模計・学歴計の年齢別男子平均給与額に基づく。
一九歳 金三万八五三三円
(15万4133円×5×0.05=3万8533円)
月収
二〇歳 金一二万三四六〇円
(246万9200円×0.05=12万3460円)
年収
二一歳 金一二万三四六〇円
計算式は、二〇歳の場合と同じ。
二二歳 金七万二〇一八円
(20万5766円×7×0.05=7万2018円)
月収
合計金三五万七四七一円
(4) 慰謝料 金二〇〇万円
(イ) 入通院慰謝料 金一二五万円
(ロ) 後遺障害慰謝料 金七五万円
(5) 弁護士費用 金三〇万円
(四) 被告は、本件事故後、自賠責保険及び原告等から合計金四〇万円を受領した。
そこで、右受領金を被告の本件損害額から控除する。
(五) よつて、被告は、反訴により、原告等に対し、各自本件損害合計金五七〇万五九一五円及び内金五〇四万八四四四円(本件後遺障害に基づく逸失利益金三五万七四七一円及び弁護士費用金三〇万円を除く。)に対する反訴状送達の日の翌日である昭和六二年六月一八日から支払ずみまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
2 反訴請求原因に対する原告等の答弁及び抗弁
(一) 答弁
反訴請求原因(一)(1)の事実、同(2)中被告が本件事故により受傷したことは、認めるが、右受傷内容は、不知。同(二)の事実は、認める。同(三)中被告の本件受傷治療のための入通院期間(実治療日数を含む。)、被告の右受傷が昭和六二年六月一五日症状固定し、障害等級一四級一〇号該当の後遺障害が残存することは、認めるが、同(三)のその余の事実は、全て争う。同(四)の事実は、認める。同(五)の主張は、争う。
(二) 抗弁
(1) 原告等は、被告がその受領を自認する金四〇万円のほか被告の神吉外科医院に対する本件治療費金二九万〇九六二円を支払つた。
(2)(イ) 本件事故現場は、片道二車線(車道部分の幅員八メートル)の南北道路と片道二車線(車道部分の幅員五・五メートル)の東西道路が、ほぼ十文字で交差する交差点である。
(ロ) 原告川村は、本件事故直前、原告車を運転して右東西道路を西方から東方に向け走行して本件交差点附近に至つたが、同人は、右交差点の西側入り口附近に存在する一時停止の標示にしたがい、路上の停止線手前で一旦停止し、同所から約一メートル前進した地点で、更に一旦停止して進路右方の交通状況を確認したうえ自車を進行させ右交差点内に進入した。
(ハ) 被告は、本件事故直前、被告車を運転して右南北道路を南方から北方に向け時速約三〇キロメートルの速度で走行して本件交差点附近に至つたが、右交差点南側入口から約一九・三メートル手前の地点で、進路左前方に、二度目の一時停止後右交差点内に進入して来る原告車を発見したが、減速又は徐行することなく、同一速度で右交差点内に進入しようとし、右交差点南側入口附近に至つて危険を感じようやくブレーキをかけたが間に合わず、約六メートル右交差点内に進入して原告車と衝突し本件事故を惹起した。
(ニ) 被告にも、本件交差点に進入するに際し、原告車の動向を注視し、減速ないし徐行する等して事故の発生を回避すべき注意義務があつた。
しかるに、被告は、右注意義務を怠り漫然自車を同一速度で進行させた過失により右事故を惹起した。
(ホ) 本件事故の発生には、このように被告の過失も寄与しているから、同人の右過失は、同人の本件損害額を算定するに当り斟酌されるべきである。
3 抗弁に対する被告の答弁
抗弁(1)の事実は、認める。
抗弁(2)(ロ)(ハ)中、原告川村が本件事故直前原告車を運転して本件東西道路を西方から東方に向け走行し本件交差点に至つたこと、被告が右事故直前被告車を運転して本件南北道路を南方から北方に向け走行し右交差点に至つたこと、原告車と被告車が右交差点内で衝突し、右事故が発生したことは、認めるが、同(2)(ロ)(ハ)のその余の事実は、全て争う。同(ニ)(ホ)の主張は、全て争う。仮に被告に本件事故発生に対する過失が認められるとしても、同人の右過失は、極めて軽微である。
第三証拠関係
本件記録中の、書証、証人等各目録記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
第一本訴
一 請求原因(一)、(二)、同(四)(1)の各事実は、当事者間に争いがない。
二 被告の抗弁、原告等の再抗弁に対する判断は、後叙反訴請求原因、反訴抗弁に対する判断と同じであるから、それをここに引用する。
三 叙上の認定説示から、原告等は現在なお被告に対し本件損害金四三〇万〇九〇七円の賠償債務を負担している、というべきである。
よつて、原告等の被告に対する本訴債務不存在確認請求は、いずれも全て理由がない。
第二反訴
一1 反訴請求原因(一)(1)の事実、同(2)中被告が本件事故により受傷したこと、同(二)の事実は、当事者間に争いがない。
2 成立に争いのない乙第一号証及び弁論の全趣旨によれば、被告は、本件事故により、頭部外傷2型、外傷性頸部症候群、腰椎椎間板障害、右肩鎖関節損傷、胸腹部挫傷、頭蓋部前額部右大腿部挫創挫傷の傷害を受けたことが、認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。
3 右認定事実に基づけば、原告川村には、民法七〇九条により、原告会社には、自賠法三条により、それぞれ被告が本件事故により蒙つた損害を賠償する責任がある。
しかして又、原告川村と原告会社は共同不法行為者に当るから、被告に対し、連帯して右責任を負う、というべきである。
二 被告の本件損害
1(一) 被告が本件受傷治療のため昭和六〇年一一月二六日から同六一年二月一八日まで八五日間入院し、同月一九日から昭和六二年六月一五日まで約一六カ月間(実治療日数一四〇日)通院したこと、被告の右受傷が昭和六二年六月一五日症状固定し、障害等級一四級一〇号該当の後遺障害が残存することは、当事者間に争いがない。
(二) 前掲乙第一号証、成立に争いのない乙第三号証によれば、被告が右入通院して治療を受けたのは神吉外科病院であることが認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。
2(一) 入院雑費 金八万五〇〇〇円
被告の入院期間八五日中一日当り金一〇〇〇円の割合。
(二) 休業損害 金三三六万三四四四円
(1) 被告本人(第一回)尋問の結果により真正に成立したものと認められる乙第二号証、被告本人の右供述及び弁論の全趣旨を総合すると、被告が本件事故当時訴外株式会社福田組に臨時従業員として勤務し、主としてセメント類その他荷物の運搬に従事して、同人の主張する一日平均金五九三二円の収入を得ていたこと、同人が本件受傷治療のため右事故日の昭和六〇年一一月二六日から右受傷の症状固定日である昭和六二年六月一五日までの五六七日間右会社で就労することができなかつたことが、認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。
(2) 右認定事実に基づけば、被告の本件休業損害は、金三三六万三四四四円となる。
(三) 本件後遺障害に基づく逸失利益 金二五万五四三〇円
(1) 被告の本件受傷が昭和六二年六月一五日症状固定し、障害等級一四級一〇号該当の後遺障害が残存することは、当事者間に争いがない。
(2) 前掲乙第三号証、同被告本人の供述及び弁論の全趣旨によれば、被告は本件症状固定当時一九歳(昭和四二年一一月二一日生。)であつたところ、同人の本件後遺障害の内容は頑固な神経障害が著しいこと、被告は、右後遺障害が存在するため、本件事故当時と同一内容の作業に就くことができないこと、したがつて、被告は、右後遺障害のため、その収入面で右事故当時に比較して減少の不利益を受けていることが認められ、右認定を覆えすに足りる証拠がない。
(3) 右当事者間に争いのない事実及び右認定事実に基づくと、被告の本件後遺障害に基づく労働能力の喪失が認められるところ、その喪失率は、右各事実に所謂労働能力喪失率表を参酌し、五パーセントと認め、又、その存続期間は被告の主張にしたがい、本件症状固定の翌日である昭和六二年六月一六日から起算して三年と、それぞれ認めるのが相当である。
(4) ところで、前掲被告本人の供述及び弁論の全趣旨を総合すると、被告は右症状固定日当時前叙会社を自然退職の形で退職して無職であつたこと、被告は右症状固定後職をさがしたが、右後遺障害のため適職を得ないでいることが認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。
右認定事実に基づくと、被告の本件後遺障害に基づく逸失利益の算定資料たる収入は、年齢別男子労働者の平均賃金によるのが相当であるところ、昭和六一年賃金センサス第一巻第一表企業規模計・産業計・学歴計における男子労働者一九歳の平均賃金月額は、金一五万五八八三円と認められる。
(5)(イ) 右認定各事実を基礎として、被告の本件後遺障害に基づく逸失利益の現価額を算定すると、金二五万五四三〇円となる。(円未満四捨五入。以下同じ。なお、二・七三一〇は、新ホフマン係数。)
(15万5883円×12×0.05×27310≒25万5430円)
(ロ) 被告は、同人の右逸失利益算定の基礎とすべき収入につき、被告の年齢を一九歳から二二歳に区別し、二〇歳ないし二二歳時の収入を一九歳当時の収入より増額された収入をもつてこれに当てている。
しかしながら、被告は、右増額の根拠を具体的に主張していないし、右根拠を是認するに足りる証拠もない。よつて、被告の右主張部分は理由がなく、採用できない。
(四) 慰謝料 金一八七万円
(1) 入通院慰謝料 金一二〇万円
被告が本件受傷治療のため八五日間入院し、四八二日(実治療日数一四〇日)通院したことは、前叙認定のとおりである。
右認定事実に基づけば、被告の本件入通院慰謝料は金一二〇万円が相当である。
(2) 本件後遺障害慰謝料 金六七万円
被告に障害等級一四級一〇号該当の後遺障害が残存することは、前叙認定のとおりである。
右認定事実に基づけば、被告の本件後遺障害慰謝料は金六七万円が相当である。
(3) よつて、被告の本件慰謝料の合計は、金一八七万円となる。
(五) 叙上の認定に基づくと、被告の本件損害の合計は、金五五七万三八七四円となる。
三 原告等の抗弁
1 抗弁(1)の事実は、当事者間に争いがない。
2(一) 抗弁(2)(イ)の事実は、被告において明らかに争わず、弁論の全趣旨によつても争つているとは認められないから、被告において右事実を自白したものとみなす。
同(2)(ロ)(ハ)中原告川村が本件事故直前原告車を運転して本件東西道路を西方から東方に向け走行し本件交差点に至つたこと、被告が右事故直前被告車を運転して本件南北道路を南方から北方に向け走行し右交差点に至つたこと、原告車と被告車が右交差点内で衝突し本件事故が発生したことは、当事者間に争いがない。
(二)(1) 成立に争いのない甲第二号証の一、二、第三ないし第五号証、第七ないし第九号証、第一四、第一五号証、第一七、第一八号証、原告川村本人、被告本人(第一回)の各尋問の結果(ただし、原告川村本人、被告本人の右各供述中後示信用しない各部分を除く。)及び弁論の全趣旨を総合すると、次の各事実が認められ、その認定を覆えすに足りる証拠はない。
(イ) 本件交差点には、信号機が設置されておらず、ただ右交差点西口入口手前と東口入口手前に張出式一時停止標識が設置され、右標識附近路上に停止の標示がなされているのみである。
右交差点西側入口手前に存する右一時停止の標識附近から前方の見通しは良好であるが、左右方向への見通しは、不良である。右交差点の南側入口右南北道路手前からの見通しも、右西側入口手前の場合と同じである。
又、右交差点の交差道路は、アスフアルト舗装で平坦である。なお、右交差点における制限速度は、時速四〇キロメートルである。
本件事故当時の天候は曇りで、路上は乾燥していた。
(ロ) 原告川村は、本件事故直前、本件交差点西側入口附近で右一時停止の標識にしたがい自車を右路上標示附近で一時停止させ、その後発進進行しようとした。右地点から左右の見通しは前叙認定のとおりであるが、更に、当時、原告車の右方、本件南北道路の南側路上西側歩道沿いに駐車車両が一台存して、原告車から右方への見通しは更に不良であつた。
原告川村は、右一時停止地点から約一メートル自車を前進させ、再度停止し右方を見たところ、右方路上に前叙駐車車両の存在を認めたが、右車両後方の交通状況を十分確認するまでに至らなかつた。
ところが、原告川村は、折から右交差点の北東角で右折待ちをしていた車両の運転手から行けの合図を送られたため、右車両の後続車両の有無に気を取られ、自車右方の安全を十分確認しないまま、自車を発進させ、時速約一〇キロメートルの速度で右車両を右交差点内に約五メートル進入させた。原告川村は、右地点に至つた時、右方からクラクシヨンの音を聞き驚いてブレーキをかけ自車を停止させたが間に合わず、右停止と同時位に、被告車の前部が原告車の右側運転席ドアーに衝突し、本件事故が発生した。
(ハ) 被告は、本件事故直前、時速約三〇キロメートルで自車を走行させ、本件交差点南側入口から約一九・三メートル手前の地点で、自車進路左前方に二度目の一時停止をしている原告車を認め、右地点から約一二・三メートル前進した地点で、右交差点内に進入して来る原告車を認め、クラクシヨンを鳴らした。
しかし、原告車がそのまま右交差点に進入して来るので、被告は、右交差点南側入口附近に至つた時、危険を感じ、ブレーキをかけたが間に合わず、本件事故が発生した。
なお、被告は、原告車を発見した右地点から自車のブレーキをかけた右地点まで減速は勿論徐行もしていなかつた。
(2) 右認定に反する、原告川村本人、被告本人(第一回)の各供述部分は、前掲各証拠と対比して、にわかに信用することができず、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。
(三) 右認定各事実を総合すると、被告の方にも、本件事故の発生に対し、本件交差点に進入するに際し原告車の動向を特に注視し、できる限り安全な速度と方法で進行すべき注意義務に違反した過失があつた、というのが相当である。
そこで、被告の右過失は、同人の本件損害額の算定に当りこれを斟酌するのが相当であるところ、同人の右過失割合は、全体に対し二割と認めるのが相当である。
しかして、所謂過失相殺は、被告の本件全損害額に対してこれを行うのが相当であるところ、被告の本件全損害額は、前叙認定の損害額金五五七万三八七四円に原告等において支払ずみであることが当事者間に争いがない被告の本件治療費金二九万〇九六二円を加算した金五八六万四八三六円になるから、これを右過失割合で所謂過失相殺すると、右過失相殺後の被告の本件損害額は、金四六九万一八六九円となる。
3 被告が本件事故後右事故に関し合計金四〇万円受領したこと、原告等が被告の本件治療費金二九万〇九六二円を支払つたことは、当事者間に争いがない。
そこで、右金員の合計金六九万〇九六二円は、本件損害の填補として被告の右損害金四六九万一八六九円から控除されるべきである。
しかして、右控除後の被告の本件損害額は、金四〇〇万〇九〇七円となる。
四 弁護士費用 金三〇万円
弁論の全趣旨によれば、被告は、原告らが本件損害の賠償を任意に履行しないため弁護士である被告訴訟代理人に本件訴訟の追行を委任し、その際相当額の弁護士費用を支払う旨約したことが認められるところ、本件訴訟追行の難易度、その経緯、前叙認容額に照らし、本件事故と相当因果関係に立つ損害としての弁護士費用は、被告主張にかかる金三〇万円と認めるのが相当である。
五 反訴についての結論
上来の認定説示に基づくと、被告は、原告等に対し、各自本件損害金四三〇万〇九〇七円及び内金三七四万五四七七円(本件後遺障害に基づく逸失利益金二五万五四三〇円及び弁護士費用金三〇万円の合計金五五万五四三〇円を除く。ただし、被告自身の主張に基づく。)につき反訴状送達の日の翌日であることが本件記録から明らかな昭和六二年六月一八日から支払ずみまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める権利を有する、というべきである。
第三全体の結論
以上の次第で、原告等の被告に対する本訴請求は、いずれも全て理由がないから、これ等を棄却し、被告の原告等に対する反訴請求は、右認定の限度で理由があるから、その範囲内で、これ等を認容し、その余は、理由がないから、これ等を棄却し、訴訟費用の負担につき、民訴法八九条、九二条、九三条、九五条を、反訴に関する仮執行の宣言につき同法一九六条を、各適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 鳥飼英助)
事故目録
一 日時 昭和六〇年一一月二六日午後四時四五分頃
二 場所 神戸市東灘区御影中町一丁目八番一号神戸市道線交差点
三 加害(原告)車両 原告川村運転の普通乗用自動車
四 被害(被告)車両 被告運転の原動機付自転車
五 事故類型 出合い頭衝突
以上